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キヲクロスト第六話「トリニティバースト」
2018.12.28
「次から次へと、キリがないな」
ヴィジョンズを蹴散(けち)らしながら、コウが愚痴(ぐち)をこぼす。
「でもそれだけブレインサーバーが近いってことで、しょ!」
ヴィジョンズを操りながら、拳銃で的確にヴィジョンズのコア部分を撃ち抜いていくマドカが答える。
「コウさん!マドカ!ちょっと待ってください!」
「どうしたの、アキ?」
「今ヴィジョンズが出てきた部屋、あそこから何か嫌な感じがする……」
「嫌な感じ?」
「なんて言えばいいんだろう……胸の奥をキリキリと絞めつけられるような感覚というか……」
コウが考えこむように顎(あご)を触る。
「ふむ……リアライザにとってそういう直感は重要だ。よし、突入するぞ!」
扉を強引にヴィジョンズで破壊すると、そこはかつて講演などに使われていたのだろうか、ゆうに数百人は入るであろう大会議場になっていた。その最奥部、講壇(こうだん)の上に、まるで生き物の触手ような、無数の配線でつながれた巨大なコンピューターが鎮座(ちんざ)していた。
それはまるで獣の唸(うな)り声のような、あるいは人のすすり泣きのような、生理的嫌悪感を引き起こさせる不気味な音色を放っていた。
「ビンゴ!」
「よし、さっそくロキを侵入させる!マドカとアキくんは援護を頼む!」
「直接破壊しちゃダメなんですか?」
「このブレインサーバーに物理的な損傷を与えて破壊しても、一度生成されたヴィジョンズたちは止まらない。こいつでプログラムを書き換えることによって、ヴィジョンズたちに自滅させるよう指示するんだ」
コウが懐から取り出した端末をコンピューターに接続する。同時に会議場のいたるところから、黒い霧とともに無数のヴィジョンズが現れた。
「駄々こねたってだめよ!」
そのヴィジョンズの群れにマドカとアキは必死に応戦する。閃光と破裂音、振動と衝撃がそこかしこに入り乱れる。
「コウさん!まだなの!?」
「待ってろあと少しだ!」
突然、敵の攻撃がやんだ。メーティスの唸(うな)り声とロキを操作する音だけが鳴り響く、奇妙な静寂(せいじゃく)。
「なに……あれ?」
気がつくと、二人の頭上に巨大な霧(きり)の塊が発生していた。その霧の中から、幽鬼(ゆうき)のような怪物の姿が現れる。
「有象無象(うぞうむぞう)じゃ相手にならないから、一体に全力を注いだってわけね!」
「よし、これが最後のひと踏ん張りだ!」
アキがそう奮い立たせると同時に、急に激痛が走った。ヒカリのことを思い出した時のような、頭が割れるような激痛。
「ああああああああ!」
「アキっ!?どうしたの、アキっ!?」
襲いかかる幽鬼の攻撃を、アキを抱えて何とかマドカはかわす。
「どうした!?」
「わからない!アキが突然痛み出して……」
「クソッ、あと少しだっていうのに!」
アキをかばいながら、マドカはギリギリのところで敵の攻撃をかわし続ける。
「くっ、これじゃあ反撃する余裕なんてとてもないわ!」
「やむを得ん、いったん加勢する!」
コウが作業の手を止めようとしたその時、突如、会議場の側壁が崩れた。その中から差し込んだ煌(きら)めく閃光が、一直線に幽鬼に向かう。
「グオオオウウウウ!!」
幽鬼の咆哮(ほうこう)が会議場に鳴り響く。壁の中から飛んできたクナイが、幽鬼の左目を撃ち抜いたのだ。その後ろから、アキたちと同い年くらいの男女が現れた。
「加勢する」
「シン!アスハ!」
「強大なヴィジョンズの反応を感知したからここへ来たの。間に合ってよかった」
アスハと呼ばれた女の子が手をかざすと、光り輝く甲冑を纏った戦乙女が現れた。そして敵との間合いを詰めると、大剣で素早く斬りあげる。
「やったか!?」
「……浅い」
アスハがそう返すと同時に反撃が飛んでくる。
「そう簡単にはいかないってわけね!」
その攻撃をかわしながら、三人は間合いを取る。
「だけどおあいにく様、私たち三人がそろった以上、もうこれ以上好きにはさせないわ!」
マドカが右手を掲(かか)げる。すると、マドカのヴィジョンズが何かの呪文を唱え始め、その周囲に冷気が漂い始めた。
「シン!アスハ!あれをやるわ!」
「了解」
「わかった」
二人がそう答えると、ヴィジョンズたちが色鮮やかな光を帯びていく。幾重(いくえ)にも折り重ねられた波動が徐々に高まりを見せ、立ち上る波動はマドカのヴィジョンズが持つ錫杖へと集められていく。
「とっておきを食らいなさいっ!トリニティ、バーストッ!」
マドカの掛け声とともに、強烈な波動がヴィジョンズたちから放たれる。
三色の美しい光が、らせん状に渦巻きながら、そのまま一気に敵を飲み込んだ。
キヲクロスト第七話「愛と絶望の使者、東郷・デリケート・ヒゲキ」