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キヲクロスト第十話「医療用ケアロボット、ウニッチ登場!」
2019.1.16
「止まった……のか?」
黒騎士のヴィジョンズに剣先を突きつきつけられながら、こわごわとコウが尋ねる。
「やった、アスハがうまくやってくれたのよ!」
動かなくなった黒騎士を見て、マドカはぴょんと飛び跳ねて喜ぶ。
しかし、その動きに反応したかのように、突如、アキが苦しそうにしたかと思うと、天に向かって勢いよく口から黒い煙を放出した。
「ウ……ゴアアアアアア!!!」
「なによ全然だめじゃない!アスハのばかーっ!死んだら化けて出てやるからーっ!!」
「落ち着け、俺たちに攻撃を仕掛けてくるには様子がおかしい」
「え……?」
シンの言葉で平静を取り戻したマドカが改めてアキを見てみると、たしかに先ほどまでのアキにまとわりついていた、どす黒いオーラのようなものが消え去っていた。
おそらく今ので、アキの人格を変えていた何かを大気中に放出したのだろう。全てを解き放ったアキはどさりとその場に倒れこんだ。先ほどまでとは別人のように、穏やかな表情だ。
「……まったく、我ながらとんでもない拾い物をしたもんだな」
その横顔を眺めながら、コウがふう、とため息をつく。
「だから俺は反対したんですよ。こんなことは二度とごめんです」
無愛想にそう吐き捨てるシンをマドカがなだめる。
「でも、シンはアキに助けられたじゃない?」
その言葉に、ぐ、とシンも一瞬言葉がつまる。
「ふん、それとこれとは、話が別だ」
「おいお前たち、なごんでいるところ悪いがもう爆発までが時間がない!急いでここから脱出するぞ!」
「それを早く言ってよ!っていうか、ここは地下の奥深くよ!?みんなヴィジョンズも使えないのに、脱出なんてどうするのよ!」
「……待って、なにかくる」
アキの精神世界から戻ってきたアスハが、崩れた壁の方向を指さす。するとそこから、にゅっと黒いウニのようなヴィジョンズが現れた。
「ウニッチ、ウニッチ!」
「またなんか出た!」
マドカの絶叫を、ヴィジョンズから流れる声が遮(さえぎ)る。
「そいつは医療用ケアロボット、ウニッチじゃ!そいつに乗って、早くそこから脱出するんじゃ!」
◆
「はぁ……はぁ……前に『じぇっとこおすたあ』ってやつに勝手に乗ったときよりも恐ろしい体験だったわ……」
ウニッチから吐き出されたマドカがふらふらと膝をつく。
地下の崩壊が差し迫る中現れたウニッチは、うにょうにょと触手を変形させると一同を取り込み、そのまま凄まじい回転を描きながらドリルのように地上まで飛び出したのだった。
「みんな無事のようでなによりじゃ!」
「これがそう見えるならね……うぅ、しゃべると吐きそう……」
マドカが力なく悪態をつぶやく横でコウが続ける。
「助かりました猿楽町博士。これはもしかして、あのときのヴィジョンズですか?」
「そのとおりじゃ。アキくんと一緒にいた、あのヴィジョンズじゃ」
「……アキと!?っていうか、なんでヴィジョンズから博士の声がするの!?」
「ウニッチはウニであり、ロボットのヴィジョンズでもあるんじゃ。今は映像通信機能を使ってこうしてお前たちと話しておる!」
「ロボって……ヴィジョンズについて、ますますよくわからなくなったわ」
「そうじゃろう、ヴィジョンズにはまだまだ隠された神秘がいっぱいじゃ!」
博士とマドカのやり取りを無視して、シンが尋ねる。
「……コウさん、そろそろこいつが何なのか、俺たちにも納得のいく説明をしてくださいよ」
「すまない。そのことに関してはあとで答える」
コウが視線をうながすと、意識を取り戻したアキがふらふらと立ち上がる。
「うぅ……ここは……俺は、いったい……?」
「アキッ!」
起き上がるアキにマドカが駆け寄る。
「バカ……ホントにもう……何やってんのよ」
「ごめん……」
謝るアキにコウが尋ねる。
「一体何があったんだ?」
「すみません、ヒゲキの言葉で完全に自分を見失ってしまいました。そうしたら目の前が真っ暗になって……」
「でも、その暗い意識の中で、誰かの声が聞こえたんだ。どこかで聞いたことがあるような、懐かしい声が」
「それは……」
「……アスハ?」
「いいえ、何でもないわ」
その先を濁すアスハに、マドカが不思議そうな顔をする。
「ひとまず、一度基地に戻ろう」
「ウニッチ!」
そう勢いよく返事をしたウニッチが再びその触手を大きく広げると、辺り一帯にマドカの絶叫だけがむなしく鳴り響いた。